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番外編 俺の、愛おしい人
「良かった意識が戻って」
「このまま目が覚めないんじゃないかって思ったんだよ」
「あれ?一太は?遥香は?太惺と心望は?」
キョロキョロと辺りを見回した。
「私の背中と、紗智さんの背中ですやすやと眠ってますよ。一太くんとハルちゃんは遥琉と一緒なので大丈夫です」
抱っこ紐で二人ともおんぶされ、お手手をぎゅっと握り締め同じ格好で熟睡していた。
顔を引っ掻かないようにミトンを手に被せてもらっていた。
良かった・・・・
安堵のため息をつくと、おなかの子がぽこぽこと元気よくお腹を蹴ってきた。
「橘さん、おなかの子が初めて蹴ったよ」
「え?」
橘さんが怪訝そうに眉を寄せた。
「じゃあ僕の気のせいかな?」
下を向くとお腹が大きくて腰を抜かすくらい驚いた。
「あれ、妊娠6ヶ月に入ったばかりなのに、何で?」
目をパチパチさせて橘さんをきょとんと見上げると、
「もしかして記憶が・・・・・」
「記憶?何の事?」
首を傾げると、
「マーの記憶が戻った‼」
紗智さんと那和さんが歓喜の声を上げた。
「じゃあ、12月20日じゃないの?」
「3月6日ですよ」
「嘘………」
驚き過ぎて唖然とする僕に橘さんが新聞を見せてくれた。何度見ても3月6日の日付だった。
「じゃあ、ここは?」
まるで浦島太郎にでもなった気分だった。
キョロキョロと辺りを見回すと、左の腕に点滴のチューブが巻かれてあるのにようやく気がついた。
「N市民病院です。ダオレンに頭を撃たれて緊急搬送されたんですよ。撃たれたといっても掠めた程度ですが……未知さんが目が覚めるまで生きた心地がしませんでした。良かった、本当に良かった………無事で………」
橘さんが手の甲で瞼の涙を拭った。
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