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番外編 俺の、愛おしい人

「俺の未知が帰ってきた……本当に良かった。これほど嬉しいことはない」 男泣きなんてみっともないと笑いながら、涙をボロボロと流し泣き出した。 「未知は未知でも、何か違うっていうか、どっか他人行儀で、よそよそしくて、変なところで気遣ってさぁ、何て言ったらいいか分からねぇけど…………とにかく寂しくて、寂しくて………だって甘えたくても、未知には俺の記憶がない訳だろ?だから怖い思いをさせちゃいけない。無理強いをさせちゃいけない。自分に何度も何度も……ーー」 僕を抱き締めたまま最後は泣き崩れた。 「ただいま遥琉さん。ごめんね、寂しい思いばかりさせて」 「いっぱい甘えていいか?」 「うん」  大きくうなづいた僕の目からも大粒の涙が溢れていた。 鼻を何度も啜りながら、広くて大きな背中にぎゅっとしがみついた。 「だめだ、だめだ。それじゃあ橘にまたこっぴどく怒られるから、ベビハルが無事に産まれて、落ち着くまで待つよ」 普段は泣く子も黙るおっかない菱沼組の組長さんも、橘さんの前では形無し。どう頑張っても頭が上がらないのは相変わらずだ。見てて本当に面白い。 「少しは成長しましたね」 苦笑いしながらその橘さんが病室に入ってきた。 「うるさいな」 ちょっとだけ頬っぺたを膨らませ不貞腐れる彼。 見慣れているいつもの光景が目の前にある安堵感に、ぷぷと思わず吹き出しそうになった。

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