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番外編 俺の、愛おしい人

「記憶が戻って本当に良かったわ。でも、ここに救急搬送されて来た時は生きた心地がしなかったのよ。もし未知さんや赤ちゃんに万が一のことがあったら、それこそ南先生に会わせる顔がないでしょう」 「先生、一度ならずも二度も助けて頂いてありがとうございます」 おなかに手を添えながら下げられるところまで頭を下げた。 「私は何もしていないわ。この子の生きようとする力が、未知さんを助けたのよ」 先生がイヤーピースを耳にあてがってくれた。 ドクン、ドクン、と力強く脈打つ心臓の音がはっきりと聞こえてきた。 「本当だ聞こえる」 嬉し涙が頬を濡らした。 ベビハル、ママを助けてくれてありがとう。 おなかを擦りながら心の声でそっと話し掛けた。 「病院内ではなるべく静かにしてくださいって、何度注意したら分かるのかしらね」 廊下が何やらガヤガヤと急に騒がしくなって、先生がやれやれとため息をついた。 「頭の傷の具合次第だけど、明日か明後日には退院出来ると思う。脳に異常は見当たらなかったし、このくらいの怪我で済んだのは、廊下にいる男性たちのお陰よ。あとでちゃんとお礼を言っておくのよ」 「はい」服を直しながら返事をした。 廊下にいる人って鳥飼さんじゃないのかな?若い衆でもないみたいだし。 じゃあ一体誰なんだろう? 「病院内ではお静かに!」厚海先生が扉を両手で勢いよくガラッと開けると、 「ちょっと押さないでよ!」 「順番守って!」 那和さんと紗智さんの制止を振り切り、大勢の人が病室に雪崩れ込んできた。

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