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番外編 俺の、愛おしい人
「その女、もしかして狐狸妖怪(こりようかい)かも知れない。そう言ってるんだ」
鞠家さんが姿を見せた。
「狐狸妖怪………?何だそれ?」
「人を騙したり、悪事を働いたりする怪しげな化け物のことだ。ようは、人知れず悪事を働く者のことだ」
「へぇーなるほどな」
「日本語は難しい」
「だな………おぃ、七海!何でお前がここにいる」
鞠家さんの背後から七海さんがぬっと急に現れたものだから、腰を抜かすくらい驚いていた。
鷲崎さんと両想いになってからは彼の側から片時も離れたことがない七海さん。まさか本当にたった一人でお見舞いに来るとは思ってもみなかったみたい。
「鷲崎さん、一人にして大丈夫なんですか?」
「一度言い出したら言うことをきかないのは彼が一番良く知っている。だから、大丈夫。未知、良かった元気そうで」
破顔し両手でぶんぶんと握手をされた。
「七海さんの手だ。あったかい」
「未知の手もあったかいよ」
他愛もない会話で盛り上がっていたら、彼に焼きもちを妬かれ、ごほんごほんとわざとらしく咳払いをされてしまった。
「ごめんなさい遥琉さん」
「未知はみんなの未知だから、まぁ、しゃあない。七海は鷲崎と一緒にこっちに何度も足を運んでくれて、未知が記憶喪失の間、子供達の世話をしてくれていたんだ」
「え?そうなんですか?」
そんなの初めて聞いたから、びっくりして七海さんを見たら、
「鷲崎ね、たいくんに好かれてそりゃあもう大変だったんだ。たいくんに本気で跡目を継がせる気でいる」
はじめて知ることばかりで頭が追い付いていかなかった。
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