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番外編 俺の、愛おしい人
エレベーターで彼やウ―さん達と一階に下りると、停電中なのか待合室は薄暗く、会計を待つ長い行列が出来ていた。
「一時間前に突然停電したそうだ」
会計をする為先に出た柚原さんがその行列の中ほどに並びながらやれやれと溜息をついていた。
居並ぶ刑事さんに睨まれながらも外に出ると、そこで待ち構えていた別の刑事さんらが彼に近付いて来た。ウ―さんとフーさんが僕の前にすぅと歩み出て、待機していた若い衆が彼を警護する為一斉に前に並んだ。
「これはこれは菱沼組の組長さん」
黒いセルロイドの眼鏡を掛けた初老の男性が彼を馬鹿にするような口調で声を掛けてきた。
「誰かと思えば浅井さん。随分と出世されたようで、おめでとうございます」
男の挑発に乗る事なく彼は冷静そのものだった。
「上司も上司なら部下も部下だ。揃いも揃って能無しのボンクラで。後始末をするこっちの身にもなってほしいもんだ」
「身から出た錆だろう」
「あ?」
「悪いな、一人言だ」
彼はどんなに脅しつけられても動じなかった。
そんな威風堂々とした立ち振舞いに、若い衆は尊敬の眼差しを向けた。
白いワンボックスカーが滑り込んできて静かに目の前で停車した。
彼に促され、おなかを擦りながらよいしょと掛け声を掛け乗り込もうとしたら、
「おぃ、まだ話しは終わっていないぞ」
刑事さんが声を荒げた。
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