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番外編 俺の、愛おしい人

「遥琉さん」 震える手で袖をぎゅっ、と握り締めた。 「心配するな、ハッタリだ」 僕に心配を掛けまいと、にっこりと微笑んでくれた。 「どんだけサツから圧力を掛けられようが昇龍会も菱沼組も龍一家も何があっても解散はしない」 浅井という刑事さんに呼び止められた彼。話しはない、それだけ返すと車に乗り込んだ。 「昇龍会も菱沼組も龍一家も他の組も全部ぶっ潰してやる。半年後には解散させてやるから首洗って待ってろ‼」 刑事さんとは到底思えないドスのきいた鋭い声に、通行人もタクシー待ちをしていた人も吃驚して思わず振り返っていた。 「浅井は黒い噂の絶えない、一番関わりたくない厄介な男だ」 彼の話だと浅井さんは伊澤さんと同期。 違法薬物を取り締まる部署で長年勤めてきた経験を買われF県警に出向してきたみたいだった。 彼をこんなにも目の敵にするということは、蜂谷さんだって相当形見の狭い思いをしているはず。 「ねぇ遥琉さん。蜂谷さん大丈夫かな?」 「マル暴から聞いたこともない資料課に異動させられたって聞いたが……未知が無事に出産したら辞表を出して両親とペンションを一緒にやるそうだ」 「そういえば玉井さんは?」 「玉井か、その………」 黙り込んでしまった。 もしかして聞いちゃまずいことを聞いちゃったかな? 「ごめんなさい、やっぱりいい」慌てて首を横に振った。

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