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番外編 俺の、愛おしい人
瞼がゆっくりと開いて。
さっき見えないのが残念だと思っていた彼の黒い瞳が僕を捉えていた。
目が合って、エヘヘと笑って誤魔化した。
でも彼はなぜか不機嫌そうで。その理由はすぐに分かった。
「てっきり未知の方からキスしてくれるのかと思って楽しみにして待っていたのに」
「ごめんなさい」
「いいよ。何も俺からすればいいだけだし」
おなかを気遣うようにそっと擦ってくれた。
「あっ、でも、一太……」
「大丈夫だ。そう簡単には起きないと思う」
一太の寝顔を眺めながら、彼がゆっくりと上体を起こした。
「そういえば蜂谷、どうなった?」
「玉井さんが出所したら、蜂谷さんと惣一郎さん和江さんとで、玉井さんが社会復帰出来るように全力で支えるって。鞠家さんは蜂谷さんと玉井さんをなにがなんでもくっ付けようとしていたみたいだけど、橘さんに余計なお世話だって怒られていた」
「そっか」
彼のおっきな手が頬に触れてきた。
温かくて心地がいい。
「俺も鞠家も惣一郎さんも和江さんも、蜂谷が好きな玉井の気持ちに気付いていた。気付いていながら何も出来ないのが歯痒くて……長い間バディを組んでいた相手を恋愛対象としていきなり好きになれってこと自体無理があるからな」
チュッ、と彼の口唇がおでこに触れてきて。
鼻先、頬っぺたと優しく口付けをされた。
「あとね………遥琉さん」
ずっと気になっていたことを意を決し聞いてみることにした。
「分かってる。茂原のことだろ?時期が来たら、ちゃんと話すから。待っててほしい」
茂原さんと炎の竜さんでなんて読むんだっけ?中国語はやっぱり難しい。
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