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番外編 俺の、愛おしい人

「は?俺も歌うのか?」 「当たり前です」 橘さんに言われ、音痴なんだ、ぜってぇ音が外れるから、とぼやきながらながらも一太と遥香と一緒にハッピーバースディートゥーユーを歌いはじめた彼。 「たいくん、さっちゃんと一緒にふぅーってしようね」 「ここちゃんは、なおちゃんと一緒にふぅーだよ」 「じゃあ付けるよ」 バースディーケーキに刺さっているろうそくに火が灯りそれを見た瞬間、火事のことを思いだし身体から恐怖が一度に溢れだした。 息が出来ないくらい苦しくて胸ぐらのあたりをぎゅっと手で押さえた。 「紗智、那和、早く火を消せ!」 「未知さん!」 彼や橘さんが慌てて駆け寄ってくれた。 ウーさんとフーがろうそくの火をすぐに消してくれて、僕に見せないようにろうそくを和江さんにそっと渡した。 「配慮が足りなかった。すまない」 「ううん、大丈夫」 きごちなかったけど、彼に余計な心配を掛けたくなくて、にこっと笑って首を横に振った。 「子ども達みんなお腹が空いているから先に食べさせてあげて」 「でも………」 「さっきもテーブルを叩いて大騒ぎだったんだよ。お預けをくらったら、今度はギャン泣きだよ」 「それはそれで困る」 「未知さんは私がみてますので、たまにはパパらしいことをしてきてください」 「たまには?」 「間違ってはいないはずですよ」 橘さんに耳の痛いことをズバリと言われ、さすがの彼も何も言い返すことが出来なかった。

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