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番外編 好看
「斉木だ、宜しく」
「あの、先生………」
やっと診てもらえると思ったのも束の間。
先生は挨拶だけすると、ウーさんから片時も離れようとせず、一方的に質問責めにしていた。
ぐいぐいと容赦なく攻めてくる先生に、ウーさんはなす術もなく。たじたじになっていた。
見るに見かねて途中から通訳に入った鞠家さんも苦笑いしていた。
鞠家さんの説明によると、日雇い労働者や違法滞在の中国人が集まる街で小さな診療所を経営していたみたい。だから、日常会話程度なら中国語が話せるらしい。
それと、惣一郎さんから、中国から来た娘 に興味はないか?器量はいいし、馬鹿が3つ付くくらい真面目な娘 なんだ。どうだ?そうウーさんを薦められたみたい。
「ただし娘じゃなくて、男だったけどな。予想が外れてさっきまでガッカリしていたのに、現金なヤツだ」
「本当にそうですね」
「しかしウーがな好看………つまり、美しい、綺麗だとは……つくづく変わった男だ」
橘さんも鞠家さんもやれやれとため息をついていた。
「若先生、少しだけど食べてくれ」
紙袋を下げて惣一郎さんが姿を見せた。
「しつこいと嫌われますよ」
「それは困る」
「じゃあ、ちゃんと診てやってください」
「俺が診るまでもない。吐き気は治まっている」
念入りに確認したフーさんが鞄を先生に返した。
その中から名刺入れを取り出すと一枚ウーさんに手渡した。
「いつでも連絡を寄越せ。分がったか?。あと、おめさん。腹にやや子がいるんだ、無理すんなよ」
僕まで名刺をもらってしまった。
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