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番外編 好看

「人の女房を口説くとはいい度胸してるな」 様子を見てきてくれた彼が目を吊り上げ先生を睨み付けた。 「遥琉さん、そんなんじゃないから」 袖を握りツンツンと引っ張った。 「あんたが卯月さんか?残念ながら人妻にはあまり興味がない」 「あとそうだ、名付けのセンスがなくて悪かった」 「なんだ、聞こえていたのか?」 「声が馬鹿でかいんだよ」 先生は彼に何をいわれてもさほど気にする素振りをみせず飄々としていた。 「未知、名刺を寄越せ」 「あっ、うん」 ただでさえ機嫌の悪い彼をこれ以上怒らせるわけにはいかないから、先生からもらった名刺をすぐに渡した。 「先生………いや、なんでもない」 何か気になることでもあるのかな? そこで言葉を止めると、名刺をポケットに押し込んだ。 「そういえば親父があんたを褒めていた。行き場を失くした若い人たちを手元に引き取り面倒をみている。困っている人がいれば手を差しのべる。誰でも出来ることじゃないって。ヤクザも随分と変わったって………でも俺は、ヤクザが……中国人がだっ嫌いだ。嘘つきで平気で人を騙す。あんたが面倒みている4人はまぁ別だが」 吐き捨てるように言うと鞄を脇に抱え、そそくさと車に戻って行った。 「橘、今4人って言ったよな?」 「えぇ確かに4人と………ここには2人しかいないのに」 「なんで紗智と那和のことが分かったんだ?惣一郎さん、先生に教えましたか?」 「儂も和江も、先生や若先生には一切喋っていない」 「そうですか………」 ポケットからくしゃくしゃになった名刺を取り出すとしばらく間それを眺めつていた。 「大阪に知り合いの刑事がいる。ソイツに頼んでみようか?口は固いし、信頼出来るヤツだ」 鞠家さんの申し出に、 「悪いな頼むわ」 先生の素性を調べてもらうように頼むことにした。

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