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番外編 好看

『オヤジのスマホに何度掛けても通話中で、それでこっちの番号に掛けた。九鬼総業にいたとき人づてに聞いたことがある。大阪のN地区に若いのに随分訛っている医者がいると。もしかしたらと思って』 「ありがとう鳥飼さん。遥琉さんに伝えておくね」 『俺が九鬼総業にいた頃の話だが、N地区は九鬼総業が幅をきかせていた。日雇い労働者や不法滞在の外国人ををカモにしてかなり悪どい金儲けをしていた。九鬼総業が解散したあとは黒竜が幅をきかせているって専らの噂だ』 受話器を寄越せと言わんばかりにフーさんに睨まれてしまった。 久し振りに恋人の声を聞くんだもの。無理ない。 「ナ ライ(ちょうだい)」 手を差し出された。 「どうぞ」 フーさんに子機を手渡すと、大事そうに抱え部屋の隅にそそくさと移動した。 「マーに焼きもちを妬かなくてもいいのにね」 「本当に」 「紗智さん、那和さん通訳しなくてもいいの?」 「だってフー、鳥飼に愛してるとしか言わないもの。通訳が必要だったらそのときは呼ぶから」 「そう。新婚さんだもの」 「紗智でもでしょう」 「いゃだ、恥ずかしい」 惚気て顔を真っ赤になる紗智さん。幸せオーラ満開で可愛い。 「未知、鳥飼何の用だ?」 「大阪のN地区に若いのに訛っている医者がいたって人づてに聞いたことがあるって」 「そうか」 ちょうど千里さんと会話中だった彼。 始発の新幹線で幹部を大阪に向かわせることになった。 「マー」 ツンツンと袖を引っ張られた。 鳥飼さんに怒られたのかな? しゅんとして項垂れたフーさんが戻ってきて子機をほらっと渡された。 「シリニシク。イイ」 フーさんも鳥飼さんの尻に敷かれたいんだっけ。心なしか嬉しそうに顔が綻んでいた。

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