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番外編 あした、はれますように

「さっちゃん、ななちゃん」一太もぴょんと椅子から飛び降りると二人のもとに駆け寄った。 「だいじょうぶだよ、こわくないよ。いちたがさっちゃんとななちゃんを、わるいひとからぜったいにまもるから、ね」 「一太くんありがとう」嬉しさのあまり二人の目には涙が浮かんでいた。 彼の背中を見て育った一太は見ないうちに小さなヒーローに成長していた。 「あ、あの………」 タイミングを逃し、声を掛けたくても掛けれなくなってしまった鞠家さん。 「一太に一本取られたな」 「まぁ、仕方ない。一太は将来の菱沼組の組長だ」 「あぁ、俺の跡目を継げるのは一太しかいない」 「そういえばあれ、どうした?」 「あれ?」 「そうあれ。あのまま先生に読み上げられたら相当まずいだろう」 てるてる坊主の下でなにやら急に立ち話を始めた二人。 「卒園式の日に先生が園児の夢を一人ずつ読み上げてくれるみたい。一太くんが画用紙いっぱいに、パパみたく、ひしねまぐみのくみちょうになる。かっこいいおとなになる。そう書いたみたい。担任の先生がもうちょっと別な夢ないかな?なりたい職業とか?って聞いたけど、一太くんはこれでいいって。バーバも、他の保護者みんなうちがヤクザだって分かってるんだ。やましいことをしている訳じゃないからって」 「あとでDVDに編集して卒園児に配布するってことは、つまり、ずっと残るわけでしょう。中には僕たちを毛嫌いしている人がいるかも知れない、そのDVDを悪用する輩もいないとも限らない。だから、一太くんに書き直そうねって言ったんだけど………」 紗智さんが困ったように一太の顔を見詰めた。 言いたいことはつまり、頑固なのは誰に似たのかなってことだ。 ごめんなさい、それ僕だ。 僕に似て、一太も頑固者だから。

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