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番外編 卒園式の朝

「下心見え見えですよ。鼻の下がのびてますよ」 いつの間にか後ろに橘さんが立っていて、腰を抜かすくらい驚いた。 ジロリと見下ろされ、慌てて彼の体を離した。 「授乳口ばかりチラチラ見てたじゃないですか。まったく貴方という人は………」 「あ?俺が見ていたのはそこじゃない。未知の柔らかな唇と揉み心地のいい尻だ」 悪びれる様子を見せずしれっとして答える彼に、橘さんは呆れて果てて、深いため息をつきながら額に手を置いていた。 「ママ、あとはハルちゃんにまかせて」 「じゃあたいくんとここちゃんのお世話お願いします」 「あとね、ゆずしゃんでしょ、まりしゃんでしょ・・・・・・ハルちゃん、ガンバる‼」 「お世話する人がいっぱいだ」 「うん」 ニコニコと愛くるしい笑顔を振りまく遥香の頭を撫でて、橘さんたちに子供たちと留守を頼んで幼稚園に出掛けた。 庭では和江さんと惣一郎さん、それにご近所さんが集まってくれて朝早くから結婚式の会場作りをはじめていた。 斉木先生はいなかったけど、お父さんの姿はあった。 「卯月さん、うちの倅が色々と迷惑を掛けてすまない」 「いいえ。あとは当人同士の問題ですし・・・・・・」 「いやぁ、倅から好きな人がいる。その人は中国人で男だって聞いた時は腰を抜かすくらいびっくりした。でも、惣一郎が紹介するくらいだからきっと真面目でいい子なんだろうな、そう思ってあえて反対はしなかった。きっちりケジメ付けて、ちゃんと卯月さんに洗いざらいすべてを話せってそう言ったんだが・・・・・」 「時期がくれば話してくれると信じて待ちます」 「すまない」 先生が彼に頭を下げた。 ストーカーよりもしつこい斉木先生に毎日交際を迫られ、最初は首を決して横に振らなかったウーさんだったけど、ぐいぐいと容赦なく攻めてくる斉木先生の強引さに押し切られて、結局、友達として付き合うことにしたみたい。

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