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番外編 卒園式の朝

「これは?」 「儂もよく分からん」 「そうですか」 彼と立ち話をしていた先生が何かに気付き、視線を駐車場の方に向けた。 「卯月さん、儂はまだ倅の好きな人に会っていない。右?左?どっちだ?」 老眼の目を皿のように細め、車の前に立つウーさんとフーさんを交互に見る先生。 「左側の、頬に傷のあとが残っている男性です」 「倅が亀っていう名前だって言ってたが」 「中国語で亀はウーグウイです。だからウーです」 「ウーか、なかなかめんごい名前だな。卯月さん、その………あれだ、一応……挨拶、してきた方がいいか?」 先生の声がガチガチに緊張していた。 遠くで見るのと近くで見るのとは迫力がまるで違う。2メートルはゆうに超える身長があるウーさんを、斉木先生は目をぱちぱちしながら、口をあんぐりと開けて見上げていた。 「うちの倅がしつこくつきまとってすまない・・・・・って何て言うんだ?中国語が分からないからな」 悩んだ末、両手でウーさんの手を握ると、満面の笑みを浮かべ、ぶんぶんと大きく振った。 誰だコイツ? 馴れ馴れするな。 警戒心を露にし眉を寄せ先生をジロリと見下ろしたウーさん。その手を振り払おうとした。でも、何かに気付いたみたいで、柔らかな笑みを浮かべるとペコと頭を軽く下げた。 「うちは・・・・まぁ、そうだな。倅が誰と付き合おうが反対はしない。ウーさん、宜しくな」 言葉の壁があったとしても、通じる何かがあるのか、ウーさん大きく頷いていた。 「ねぇパパ。ウーさんも、おもしろいおじちゃんとけっこんするの?」 そんな二人のやり取りを黙って眺めていた一太。 まさかそんな事を聞かれると予想もしていなかったから言葉に詰まっていた。 当人同士の問題だし口を挟むことじゃないけど、ウーさんにもフーさんみたく、幸せになってほしい。

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