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番外編 結婚典禮

「未知さん久し振りね。元気そうで良かった」 紫さんの声が頭上から聞こえてきたかと思ったら、肩をぎゅっと優しく抱き締めれた。 「記憶も戻ったって聞いて………本当に良かったわ」 「いろいろ心配を掛けてごめんなさい」 「いちいち謝らないで」 紫さんが鼻をずずっと啜って目頭をそっと指先で押さえた。 「いゃ~~あ、連れてくるの大変だったんぞ」 紙コップを片手に度会さんが椅子に腰をおろした。 「一太がわざわざ手紙を寄越したのに、鳥飼のヤツ、俺は部外者だ、行く訳には行かないって、なかなか首を振ろうとしなかったんだ」 「さっきまで行かないって言ってたのよ。そしたら………」 紫さんがご馳走を頬張る一太と遥香にチラッと目を遣った。 「一太くんから電話があってね。フーさん、まってるよ。さみしがってるからあいにきてあげて。まいにち、フーさん、ママのたまよけがんばってるから、みにきてあげてって。ハルちゃんも、アタシもフーしゃんも、とりしゃんにあいたい。そう言ってくれて、鳥飼もやっと行く気になったのよ」 「そんなことあったんだ。知らなかった」 そのフーさんと鳥飼さんは………というと、 ベンチに座ったフーさんの膝の上に鳥飼さんが向かい合う形で座って、お互いのネクタイを弄り合いながら、笑顔で談笑していた。 人目もはばからず堂々といちゃつく二人に、 「たく、素直じゃねぇんだから」 度会さん苦笑いしていた。紫さんも、 「本当は会いたくて会いたくて仕方がなかったのにね。強情っぱりなんだから」 ため息をついて笑うしかなかった。 一方のウーさんは、さっきの件もあるからと若い衆と敷地内をパトロールしていた。 彼にお祝いの席だから混ざるようにと言われたんだけど、首を縦に振らなかった。 そんなウーさんを何度かチラチラと見ていた一太が椅子からすっと立ち上がった。

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