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番外編 ウーさん初めての焼きもちを妬く
「そんな大事な事、なんで言わねぇんだ」
「言える訳がねぇべ。相手はあの黒竜だ。親父や何の罪もない患者や近所のみんなを巻き込むことになる」
若先生や斉木先生のやり取りを黙って聞いていた彼。
橘さんも彼と同じように黙って聞いていた。
そしてほぼ同時に声を発した。
ーー事情はだいだい分かったわ。アタシ血も涙もない鬼じゃないわよ。恥ずかしがらずにピンポン押してくれれば良かったのにーー
彼や橘さんより千里さんの方が早かった。
「そだごと言ったって」
若先生が悔しそうに唇を噛み締めた。
ーーねぇ斎ちゃんの息子さん。アタシの検討違いだったらごめんなさいね。その女性、カオルに命を狙われているんじゃないの?ーー
「おめさんは名前の通り千里眼だな。何でもお見通しってが」
ーー福島市やその近辺の病院に、精神疾患を抱えたの妊婦はいないか?そう不審な問い合わせが相次いでいる、そう小耳に挟んだから。未知が入院していたN市民病院はそこから一番近い病院でしょう?だから早くから目を付け看護師に化けて潜り込んでいた。カオルの狙いは未知じゃなくその女性だった。斎ちゃんの息子さん、未知は誰かさんに似て、困っている人がいたらほっとけない性格なのよ。危険を顧みず、すぐに首を突っ込もうとする。でも今、すっごく大事な時期なの。医者なら分かるわよね?貴方の知っている情報をすべて遥琉たちに伝えてくれないかしら?」
若先生はしばらくの間黙り込んでいた。
「このバカ息子‼儂の愛しい千ちゃんが頭を下げて頼んでいるんだ。いつまでも黙ってないで早く答えんか」
斎木先生がつかつかと若先生に近寄ると手をグーに握り、拳骨を食らわせた。
「いで、何すんだ」
頭を抱えながら若先生は斎木先生を睨み付けた。
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