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番外編 さよならじゃない。

「フー、オヤジの言う通りだ」 鳥飼さんがフーさんの手首を掴むと、小さく頷いて静かに手を下ろした。 鞠家さんが二人に何かを話し掛けた。 言葉が通じないからちんぷんかんぷんだったけど、 ーーお前たちの主は地竜かも知れないが、ここにいる間は、オヤジが主だ。それを決して忘れるなーー 改めて二人に釘を刺したみたいだった。 「なぁ鳥飼、まずは、その………着替えをしてこないか?」 彼が言いにくそうに口を開いた。 ネクタイをしていないから首回りがハッキリと見えていた。 その………なんと言うか…… 「オヤジ、何か気に障ることでもありましたか?」 「だから、その………キスマークだらけなんだよ。首の回り。目の置き場に困るだろう」 彼の言葉にはっとし、耳まで真っ赤にしていた。 「新婚さんに野暮なこと聞かないの」 紫さんがすっと前に出て、鳥飼さんの首に薄ピンク色のショールをそっと巻き付けた。 「度会のスマホに着信履歴が残っていたんだけど、何かあったの?度会は二日酔いで頭が回っていないから」 「紫さん、あの………ーー」 その時、交通誘導の棒を振る若い衆の制止を振り切り、黒塗りのセダンが強引に駐車場に侵入してきた。

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