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番外編 古狸と狐狸妖怪

「言われなくても分かってる」 若先生が背伸びしてやたらと後ろを気にしていた。振り返ると誰かに……といってもウーさんしかいないんだけど……勢いよくぶつかってしまった。 「ごめんなさい」 「アブナイ」 ふらついた僕をウ―さんがすぐに手を差し伸べ支えてくれた。 「ウ―、あのな」 声を掛けようとした若先生をウ―さんが止めた。 目で那和さんに何かを訴えながら言葉を続けた。 こういう時中国語が分かれば、ウ―さんの手助けが出来るのにな。 「那和、早く通訳してくれ」 「通訳しなくてもだいたい分からない?」 「そだこと言っても」 「ほら、さっきの指輪」 「は?失くしたら大変だから、しまっちまったぞ。早く言え」 「さっき言ったじゃん」 二人のやり取りをウ―さん笑いを必死で堪えながら見ていた。 「たく、呑気に漫才をしている場合じゃないだろう」 鞠家さんはやれやれと溜息をついていた。 「若先生、一人の子どもの命が掛かっているんですよ。その事を分かってらっしゃいますか?」 夕ご飯の準備を紫さんとしていた橘さんが割烹着姿で姿を現し、鋭い眼差しで若先生に詰め寄った。 「そだおっかねぇ顔すんな。めんごい顔が台無しだべ」 「遥琉にも言われたはずです。生半可な気持ちでは駄目だって。あなたは誰よりも黒竜(ヘイノン)の怖さを知っているはずです。死ぬ気で二人を守らないと、古狸とカレンに抹殺されますよ。結婚して早々ウーさんを一人にする気ですか?ウーさん一人で障害がある子どもを育てることは並大抵のことではないんですよ。それをちゃんと分かってますか?」 早口で矢継ぎ早に捲し立てた。 「分かった、分かったから」 橘さんにはどう頑張っても敵わないと踏んだのか、早々に白旗をあげた。

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