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番外編 古狸と狐狸妖怪
「駆け付けたくても身動きが取れなかった。ごめんな、怒ってるよな?」
じっと見詰められ、心臓が爆発しそうになった。ドキドキして、頭が真っ白になった。
「ううん」
ぶんぶんと首を横に振った。
「僕、いても何も出来ないから。せめてみんなの邪魔にならないように端っこの隅にいただけだから何もしてないよ」
「いゃな、病院の近くにさぁ、小さな花屋があって。たまには花でも贈ろうかなって………」
恥ずかしいのか言いにくそうに口にすると、赤いリボンが掛けてある黒い小さな箱を渡された。
「へ?」
驚きすぎて思わずすっとうきょうな声が出てしまった。
「そんなに驚くか普通。まぁ、今まで何も贈り物してこなかった俺が悪いんだけどさぁ・・・・とにかく開けてみろ」
彼に急かされリボンをほどいて箱をそぉーと開けてみた。
「わぁ~~可愛い‼」
「だろう?」
春らしいピンクのミニバラと赤い大輪のバラ、あとアジサイの花がぎゅっ、と小さい箱に敷き詰められていた。
【I love you】と書かれたメッセージカードが添えられていた。
「これって、確か、ブリザード・・・・なんだっけ?」
「ブリザードじゃなくて、プリザーブドフラワー。実は俺もさっき知ったばかりなんだけど。枯れない花みたいだよ」
「いいの?遥琉さん、こんな高いの・・・・」
何か申し訳なくて項垂れた。
「その為に働いているんだろう?」
何か僕変なことを言ったかな……
目を細め笑うと、そのまま身を乗り出して来て、頬を撫でられそっと口付けられた。
ん
柔らかな、温かなキス。
離れては触れ、触れては離れるキスは、僕の胸をゆっくりと幸せで満たしていった。
こんなことしている場合じゃないのは分かってる。分かっているけど、彼が好きっていう気持ちが胸の奥から込み上げてきて、駄目って言うことがどうしても出来なかった。
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