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番外編 古狸と狐狸妖怪
思わぬ邪魔が入ってプロポーズどころではなくなったウ―さんと若先生。
それから数日後の日曜日。彼が若先生を岳温泉から呼び出した。
よく喋る先生だったのに借りてきた猫のように静かで。緊張しているのか額の汗をハンカチで何度も拭いていた。
「先生、そんなに緊張しなくてもいいですよ」
「そだこと言ったって」
「お節介だとは重々承知しています。でも、一人の子どもの人生が関わっている以上、二人にちゃんと今後のことを話し合ってもらいたくてご足労頂いたんです」
「それは分かってる」
若先生がスーツの内ポケットに手を入れごそごそと何かを探し始めた。
大事そうに取り出したのは渡しそびれた結婚指輪だった。
「ウ―とペンションでいっきゃって、俺、一目で好きになったんだ。こげぇ、いじましくてめんこい子初めてだったから。年甲斐もなく心臓がどきどきした」
恥かしそうに顔を真っ赤にしながらウ―さんとはじめて出会った日の事を話してくれた。
片想いの惚気話しを延々と聞かされる羽目になった彼と、同席していた鞠家さん。はじめこそ呆れていたけど、ウ―さんの話しをする若先生の表情は生き生きしてて傍から見てもとても幸せそうで。
彼も鞠家さんも最後まで若先生の話しに付き合っていた。
「卯月さん、鞠家さん、柚原さん、みんな夫婦仲がいいべ。だから羨ましくて。俺もウーとみんなみたくなれっか心配なんだ。それにややこだろ?子育てなんかしたことねぇ俺に、ちゃんと育てられるか・・・・不安なんだ」
ほんの一瞬暗い表情を見せ、本音をぽつりと漏らした若先生に、彼と鞠家さんは、ベテランママとパパの橘夫夫が側についているから大丈夫だ。なるようにしかならない。そう声を掛けて励ましていた。
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