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番外編 古狸と狐狸妖怪

この騒ぎにも関わらず太惺と心望は橘さんと柚原さんの背中で熟睡していて二人とも一回も起きなかった。 春のぽかぽか陽気と、橘さんと柚原さんの背中がよほど寝心地がいいみたいで、口をモゴモゴと動かしながら可愛らしい寝顔で眠っていた。 「警察や消防が撤収するまで起こさないで下さいよ」 「分かってるって」 彼が二人の頭を優しく撫でてくれた。 度会さんと紫さんは別室で警察に聞かれている。 若先生は駆け付けてくれた救急隊員に、怪我の処置はこっちでやる。さっさと帰れ!人が変わったように怒りを露にし追い返した。 N地区で何があったかわかないけど、救急隊員と警察に根強い不信感を抱いているようだった。 彼に頼まれ上澤先生が急遽助っ人に来てくれた。 それだけじゃない。 「未知さん!」 あっ、この声は……… 彼の肩がビクっと震えたのが分かった。 「南先生お久し振りです」 「元気そうで良かった。妊婦がいるんだから少しは手加減しなさいっていうの。全くもう」 「南先生も上澤先生も病院がお休みなのにすみません」 「何言ってるの。私はあなたの主治医よ。そんな悲しい顔をしないの。ほら元気を出して」 いつもと変わらない底抜けに明るい笑顔に励まされてしまった。 「もしかしてこの二人が厚海先生が話していたフーさんとウーさん⁉イケメンにそんなにじっーと見詰められたら恥ずかしいじゃないの。私これでも人妻よ」 フーさんとウーさんにジロリと無表情で見下ろされても南先生は怖がることなく、全く動じなかった。流石だ。

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