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番外編 私を信じて
ちろ、と彼の舌に唇の表面を撫でられた。
輪郭を辿るように動くたび、びくびくと身体が跳ねる。無意識に逃げようとした身体を、彼の腕が包み込みやんわりと阻まれた。
「未知、口を開けてみ」
微かに掠れた声で命じられ、そっと唇を開けると、彼の舌がするりともぐりこんできた。
「んっ、んっ」
きゅうっと吸い上げられ、彼のが絡まってくる。
気持ちいい………
数えきれないくらいキスをしているのに。
唇を合わせているだけに、どうしてこんなに気持ちがいいんだろう?
安堵する心地よさに、だんだんと頭がぼうっとしてきた。
身体から力が抜けていって、彼に寄りかかった。
雀の囀る声で目が覚めた。寝ている彼を起こさないように布団からそぉーと出ようとしたら、
「まだ暗いぞ」
彼の逞しい腕が体にしがみついてきた。
「うん。でも、ナオさんのお手伝いしないと。子どもたちお願いしても大丈夫?」
大きい欠伸をしながらも「あぁ、分かった。行って来い」そう言ってくれて名残惜しそうにだけど、すっと静かに腕を離してくれた。
ありがとう遥琉さん。
台所に顔を出すと、ナオさんがカレンダーと何やら睨めっこしていた。
「おはよう未知。いやね、もう四月なんだなって。晴は年長さん、未来は年中さんでしょう。一太くんも小学生だしハルちゃんは幼稚園入園だし、時間が過ぎるのって本当にあっという間だよね」
「うんそうだね」
「ノンカフェインのコ―ヒ―、インスタントだけど準備しておいたんだ。ミルク多めでいい?」
「ありがとうナオさん」
「座ってて、すぐに作ってあげる」
「自分が飲むのくらい自分で……」
「いいからいいから」
ナオさんが手前の椅子を引っ張り出してくれた。
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