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番外編 私を信じて
「去年の夏だったかしら。珍しく尚也の方から電話を寄越してくれて。はじめてママ友が出来たって、すごく嬉しそうに話しをしてくれたのよ。いつもの私なら然程気にも留めないのにね。そのときはどういう訳か気になって仕方がなくてね。そのママ友のことを秘書に調べさせたの」
額田さんはそこで言葉を止めると、軽く瞼を閉じ、自分の胸を腕の力の限り抱き締めながらどうすることも出来ない遣瀬なさに深い息をついた。
「家庭内における虐待からこどもを守る、性的指向及び性自認を理由とする偏見や差別をなくすーー公約に掲げておきながら何一つ実現させていない自分に対し怒りを通り越して悲しくなったわ。未知・・・・・さんでしたっけ?卯月さんの奥様。ここにいらっしゃる?」
「はい。未知、おいで」彼に手招きされた。
人の良さそうな穏やかな笑みを浮かべる額田さん。
でもそれが逆に怖くて。
ふと感じた違和感に、演技かもしれない。何かされるんじゃないか、そんな猜疑心を抱いた。
ねぇ遥琉さん、本当に本当にその人、信じて大丈夫なの?目で訴えかけた。
「大丈夫だよ。信孝さんと卯月さんがいるから。それにウーさんとフーさんが額田さんにピタリと張り付いて、一挙手一投足に注意を払っているから」
ナオさんに心配ないからねと声を掛けられ、乗り気がしなかったけど椅子からゆっくりと立ち上がった。
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