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番外編 金の亡者

『橘の尻に敷かれているパパとはえらい違いだな』 「おぃ、聞こえているぞ」 『なんだいたのか』 「いて悪かったな」 憮然とする彼。 『お前や橘、それに一太がいなかったらと思うとぞっとする。ありがとう』 「止せや。背中が痒くなるだろう」 『他の3人からも電話が行くかも知れない。なるべく早めに仕事を終わらせるから』 「おぅ」 彼が答えると、 「パパ、いちたおにいちゃん、めっちゃ、かっこよかったんだよ」 「いちたおにいちゃんと、いちたおにいちゃんのパパがいるからだいじょうぶだよ」 二人が身を乗り出してスマホに話し掛けた。 そうだね。橘さんもいてくれるし。 紗智さんや那和さんもいる。 ウーさんもフーさんもいるから心強い。鬼に金棒だ。 みんなでナオさんを守ってあげよう。 マナーモードにしたスマホがエプロンのポケットのなかでぶるぶると振動するたびナオさんが深いため息をついていた。 「電源をオフにすればいいんでしょうが、信孝さんや吉崎さんから急用の電話が来ないとも限りませんし、困ったものですね」 「変なことを聞いてもいいですか?」 橘さんと並んで台所に立ち、ジャガイモの皮を剥いていたナオさんがふと手を止めた。 「どうかしましたか?」 「あの書類に金額が一切書いてなかったから。前に一度、僕や翔兄さんには遺産相続の権利はないから余計なことはしない方が身のためだって佐原さんに言われたことがあって」 「言われたんじゃなくて、強い口調で脅されたんでしょう?」

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