1078 / 4007

番外編 金の亡者

無表情のまま胸の前で腕組みをしたフーさんは二人が通訳してくれる中国語にじっと耳を傾けていた。 「楮山は鳥飼の舎弟だった男だ。目の前の大金に目がくらみ鳥飼を裏切り、九鬼側に寝返った」 彼の言葉にフーさんの眉がピくっと震えた。 「だから、寝返ったっていう意味はね………そういう変な意味じゃなくて………那和、ヘルプ」 「へ?何で僕?」 フーさんにじろりと睨まれ、那和さんはエヘヘと愛想笑いで誤魔化した。 「鳥飼と楮山は恋人とかじゃないよ。鳥飼が好きなのはフーだけ」 「那和の言うとおりだ。だからそんなに睨むな。じゃない、頼むから睨まないでくれ。紗智や那和を怖がらせないでくれ。通訳をしてもらえなくなったら俺や未知が困る」 国が違えば言葉も習慣も当然ながらまるっきり違うから。それに日本語は複雑で難しいって紗智さんや那和さんが言ってたっけ。 「佐原は九鬼に命じ、福光に害をなすものを力に物言わせことごとく排除してきた。九鬼総業が解散したあと、それを踏襲したのが楮山だ。汚れ仕事を一手に引き受け、悪党同士持ちつ持たれつの利害関係で成り立っている」 「楮山は何をしでかすか分からない危険な男だ。俺が縣一家の次男じゃなかったら、ナオや子どもたちと一緒に消されていた」 信孝さんの表情が引き締まった。 「そんな………」 僕は何も知らなすぎた。 ナオさんのママ友としてそばにいながら何一つ知らなかったことがショックだった。 「僕は守られていたんだ。遥琉さんや、橘さん、鳥飼さん、鞠家さん、組のみんなに……」 「愛するカミさんと家族と組を守るのは俺たちの役目。な、信孝、フー」 「たまにはいいことを言うじゃないか遥琉。少しは成長したな」 「五月蝿いな」 気恥ずかしいのかわざと咳払いをしていた。

ともだちにシェアしよう!