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番外編 黒い刺客

【パパ、でんわだよ。でんわ】 その着信音は晴くんと未来くんの声だった。 「仕事用とは別にもう一つ携帯を持っているんだ。笑いたければ笑え」 気恥ずかしいのか照れ笑いを浮かべる信孝さんに彼は、 「家族想いで子煩悩なお前らしい。早く出てやれよ」 冷やかすことは一切しなかった。 「でもまさかこっちに掛けてくるとはな」 掛けてきた相手は額田さんだった。 電波が悪いのか声が遠くてよく聞こえなかった。 話す前に電話が切れてしまい、信孝さんがすぐにリダイヤルボタンを押すと今度ははっきりと声が漏れ聞こえてきた。 「無事、なんですよね?」 『えぇ、走り屋のプロの方が運転して下さってるから………でも、そんな職業があるなんて初めて知って驚いたわ。私も藤平さんも無事よ、安心して』 彼の袖をツンツンと引っ張った。 「ねぇ遥琉さん、走り屋のプロって、どんなお仕事なの?」 僕も初めて聞いたから、彼に思わず小声で聞いてしまった。 「いや、仕事じゃないんだな」 彼も返答に困っているようだった。 「あとでちゃんと説明する」 頭を掻きながら愛想笑いをされた。 『骨の髄までどす黒く汚れきったこんな私でもやり直せるって聞かれたのよ。だから、今からでも遅くないって答えた。幾らでもやり直せるってね。彼女は兄の所には帰らないとはっきりと私に言ったわ。だからなにがなんでも逃げきらないとね』 額田さんの声はとても明るくてあっけらかんとしていた。 福光の娘という重荷を自らの意思で肩から下ろすことが出来て、ある意味吹っ切れたのだと思う。

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