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番外編最善の余慶
「伊澤さんの部下だった甲崎 さんですよね?」
心望と太惺のオムツを交換しに行っていた橘さんが戻ってきた。
「ということは……マル暴のデカか?」
「えぇ。さっき斉木先生から電話がありました」
「斉木先生が………?おぃ、どういうことだ?」
彼が男性を睨み付けた。
「そんな怖い顔で睨むな。悪気があった訳じゃない」
にやりと笑うとぐいっとお酒を一気に吞んだ。
「やっぱりいい。だいだい話しは分かった」
「まだ何も言ってないだろう?」
「聞かなくても分かる」
斉木先生の名前が出た時点で、千里さんが絡んでいると踏んだ彼。
それは見事に的中した。
「聞くまでもないが、あんたも千里のファンだろう?」
「あぁ、そうだ。千ちゃんが昇龍会次期跡目に決まった日から彼女を監視するように上から命じられて、客を装い劇場に通うようになって、そこで斉木と出会って意気投合した。千ちゃんに俺がデカだってすぐに見破られたが、千ちゃんはそれを口外することはなかった。そこがいいんだ千ちゃんは。分け隔てなくファンに接する態度も立派だし、脱ぎっぷりも、律儀で真面目なところも、それに・・・・・・」
「もういい」
目をキラキラと輝かせてのろけ話をはじめた男性に、彼が、聞くんじゃなかったと独り言を口にし、はぁ~~と深いため息をついた。
「ダンサーを辞めたあとも千ちゃんとは、ヤクザの組長とマル暴のデカとして、持ちつ持たれつ、ギブアンドテイクの関係を続けている。その千ちゃんから直々に、妹と妹のママ友を佐原と梶山組から守ってと頼まれたら、そりゃあ、頑張るしかしかないだろう。俺も斉木も千ちゃん一途だから。千ちゃんの為ならこの命さえ惜しくない。それに未知は伊澤さんにとって実の孫娘も同然だ。恩を仇で返す訳にはいかない」
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