1100 / 4007

番外編 最善の余慶

「優璃はみんなのだ。俺が一人占めしていたらバチが当たる」 一太の隣にちょこんと座ると髪を指先で玩びながら優しく撫でてくれた。 「柚原さんは、その……」 「焼きもちを妬かないのかってだろう?優璃を誰よりも愛しているからこそ妬くときは妬く」 橘さんが子どもたちを寝かし付けるときにいつも口ずさんでいる子守唄を歌いはじめた。 「俺も優璃もこうして子どもたちの面倒を見るのが楽しい。四人を寝かし付けのは大変だが、寝顔ははまさに天使だ。一日の疲れが一瞬で吹き飛ぶ」 そこで一旦言葉を止める柚原さん。 人差し指を唇の前で立ててしーと小声で呟いた。 さすが寝かし付けのプロ。 5分も過ぎないうちに、あれほど眠れずにいた一太をあっという間に眠らせてしまった。 「甲崎からの情報だ。古狸と楮山は裏で繋がっている。安井カオルは東京に戻らずいまだ県内に潜伏し続けている。彼女のターゲットは藤平文乃じゃないのかも知れない」 「僕と………ナオさん?それとも……子どもたち?」 「億単位の金が目の前にぶら下がっているんだ。そう易々と諦めるわけない連中じゃない」 一難去ってまた一難。 このまま穏やかに彼と子どもたちと、お腹の子と過ごしたいのに。 どうしてそっとしておいてくれないのかな? 「柚原さん、甲崎をなんとかしてください」 若い衆の声が廊下から聞こえてきた。 「どうした?」 「橘さんに絡んで大変なことになってます」 「は?」 柚原さんの目付きが変わった。 「たく真っ昼間から酒をかっくらって酔っぱらって………恐らく優璃を千里と思い込んでいるんだろう。優璃は俺のだ。好き勝手にベタベタ触りやがって」 声を荒げた。 「頑張って柚原さん!」 「おぅ。頑張ってくる」 気合い充分で広間へと戻っていった。

ともだちにシェアしよう!