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番外編最善の余慶
それから数週間後ーー
桜が咲き始めたS公園にみんなでお出掛けした。
春のやわらかな陽光に包まれ、ベビーカーの中で太惺と心望は気持ち良さそうにうたた寝していた。
一太と遥香は紗智さんと那和さんと一緒に遊具で遊んだり、砂場で砂遊びをしたりしてはしゃいでいた。
僕とナオさんは、礼さんから生前贈与されたお金を基金という形で残すことに決めた。
名前は【福光こどもみらいのかけはし基金】
一人でも多く黒竜の被害にあったこどもや少女を助けたい。それは僕もナオさんも同じ。
「そんなに急がなくても大丈夫だよ」
晴くんと未来くんに手を引っ張られてナオさんが姿を見せた。信孝さんも一緒だ。
ナオさんは顔を隠すように帽子を目深に被り、あたりをキョロキョロと何度も確認していた。
「いちたおにいちゃん!ハルちゃん!」
大好きな二人の姿をすぐに見付けると、にこにこしながら駆け寄っていった。
「保釈金を払い釈放されたばかりの佐原とユズルが忽然と姿を消した。ついさっき甲崎から連絡が入った」
信孝さんの表情は強張っていた。
ナオさんの顔色も冴えなかった。
「お金は人を変えるって……彼が言ってた」
「あぁその通りだ。佐原はなにがなんでも俺と遥琉に罪を擦り付け、金を奪い取る気だ。ナオの過去をベラベラと面白おかしく、ありもしないことまでマスコミに話しやがって」
悔しそうに唇を噛み締めた。
「ナオさんごめんね、僕、なにも出来なかった」
なにも出来ない自分に腹が立って、ぎゅっとスボンの布を手で掴んだ。
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