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番外編 最善の余慶

「あの橘さん」 「どうしました?」 「本当は明日でもいいんだけど………でも、気になって…………」 彼の顔色を伺うようにチラッと一回だけ見た。 「その………あの………えっと………綾さんからの………」 しどろもどろになりながら言葉を続けた。 「あぁ、手紙ですね」 「あ、はい」 「捨てました」 「え?」 橘さんのことだから、おそらく綾さんの弁護士さんに、開封せずにそのまま送り返したかも。そう予想はしていたけど。 「おぃ橘。真面目に答えろ。未知が真に受けるだろう」 彼がむくっと体を起こし声を荒げた。 「犯した罪を深く反省している。更生の余地がある。情状酌量を裁判官や裁判員に訴え、執行猶予を勝ち取る魂胆でしょう。だから、わざわざ手紙を寄越したんです。でも、あらかじめ書かれていた内容を丸写しただけの、薄っぺらな、謝意がこれっぽっちも感じられない手紙を受け取れば、相手の思うつぼです。だから、内容証明書を添付し送り返したんです」 初公判を来月に控えた彩さんを影ながらずっと支え続けてきた国選弁護人が突然解任され、代わって川合という女性の弁護士が彩さんの担当になったとは彼からそれとなく聞いてはいた。 「着手金一千万円。報酬金二千万円。合計三千万円。それを誰が払うのか、金の出所が気になります」 「ノー?・・・・・・えっとなんだっけ?」 「ノーティオ法律事務所です。過払い金のコマーシャルをバンバン流しているところです。いかにも胡散臭い法律事務所です。まぁ、数週間前まで佐原法律事務所だったところですから」 「なるほどな」 心望を起こさないように布団にそぉーと静かに寝かせる橘さん。でもすぐに、ふぇ~んふぇ~んと顔を真っ赤にして泣き出した。 熟睡していたはずの太惺までなぜか一緒に泣きはじめた。さすが双子だ。

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