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番外編 一太、おめでとう

「マー、ワルクナイ」 「ウーの言う通りだ。悪いことはなにもしていないんだ。堂々としていればいい」 「ありがとう柚原さん、ウーさん」 二人に背中をそっと静かに押され、ゆっくりと歩き出した。 昇降口に張り出された新入生のクラスの名簿をフーさんがじっと眺めていた。 「フーの記憶力は抜きん出ている。クラス全員の子どもの名前と顔。それに、親の顔を頭にインプットしているんだろう。さっきまで校舎内をウロウロしていて怪しまれたらしいよ。ただでさえ目立つんだ。どこにいてもすぐ分かるからな」 柚原さんがフーと声を掛け、 「何か気になるのか?」 一緒に名簿を覗き込んだ。 「変わった名前はみんなキラキラネームだ。似たような漢字を使っていても日本と中国では読み方も意味も全く違うから。言葉が通じないから説明するのもなかなか難しいな」 柚原さんが苦笑いした。 本当は鞠家さんも一緒に来る予定だったんだけど、ままたん役がいないと面白くないと遥香に駄々を捏ねられ留守番になった。 「学校の敷地内は禁煙です‼」 案内係をしていた男の先生が正門に寄り掛かり煙草を吸う何人かの保護者らしきスーツを着た男性を注意した。 でも聞こえていないのか、誰も指示に従おうとはしなかった。

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