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番外編 一太、おめでとう
一太のクラスは1年2組。
教室が近付くにつれ緊張と不安が同時に襲ってきた。
心を落ち着かせようと髪を撫でたり、目を閉じて深呼吸をしていたら、
「未知、心配しなくても大丈夫だ」
彼がにっこりと優しく微笑んでくれた。
「一太がな、僕のママはみんなのママとは違う。パパでもありママでもある。赤ちゃんがお腹の中にいるからどうか優しくしてあげて下さいって、大きな声で堂々と自己紹介をしたあと、みんなにそう頼んでいた。俺がみんなに話そうと思っていたんだが、先を越された」
「一太が……?」
感極まり涙が溢れそうになり、目の縁を手の甲でごしごしと擦った。
「こそこそ隠しているより本当の事を打ち明けたほうが胸の痞えが少しは下りると思うんだ。それでもとやかく言う親はいるだろうが、相手にする必要はない」
「うん、分かった」大きく頷いた。
ビクビクしながら彼の後ろにぴたりとくっ付いて教室に入った。
緊張し過ぎて額からは汗が噴きだしていた。
「いちたくんのママですか?」
入るなり子どもたちに囲まれてしまった。
「うん、そうだよ。宜しくね」
ぺこりと頭を下げると、ニコニコしながら、名札の名前を恥ずかしそうに見せてくれた。
「ママのせきはここ」
一太が駆け寄ってくれて。窓側の一番後ろの席を指差した。
「座らなくても大丈夫だよ」
「そんなことを言わずに、遠慮せずに座って下さい」
担任の先生からも声を掛けられてしまった。
優しそうなベテランの女性の先生だった。
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