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番外編薄墨の女
「女狐め。ようやく網にかかったか」
「お祖父ちゃん?お義父さん?」
言っている意味が分からなくて二人に聞き返した。
「陽動作戦だ」
「女狐を誘き出すためのな」
クククと意味深な笑みを浮かべた。
「安井カオルは名前と身分を偽り、ヘルパーとして独り身の高齢の資産家に言葉巧みに近付き、結婚をちらつかせ大金を騙し取っている。実際、カオルに関わった男が何人も行方不明になっている」
千里さんら本部の幹部がそれこそ寝る時間も削り死に物狂いで調べあげたんだと思う。
「確たる証拠がないとサツは動かない。犯罪に巻き込まれた形跡がないから、単なる家出だろう。それで門前払いだ」
お祖父ちゃんがズズッとお茶を啜った。
「面目ない」
「惣一郎は悪くない。無論、蜂谷もだ。誰も二人を責めやしないさ」
お義父さんがお猪口を一口、口にゆっくりと運んだ。
家に帰るとお祖父ちゃんとお義父さんは、緊急を要する状況にも関わらず度会さんや惣一郎さんら古参の幹部の皆さんと広間で酒を呑み交わしながら談笑していた。
お祖父ちゃんだけはなぜかお茶だけど。
「そんなに心配するな。斉木親子は無事だ。それに川合っていう弁護士のこともほっとけ。相手にするな」
「それがいい」
まずは自分の体を大事にしろ、他の皆さんにまで言われてしまった。
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