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番外編 薄墨の女
「遅くなってすまない」
彼が帰ってきたのはそれから2時間後。夜の8時をとっくに過ぎていた。
「一太、遥香ごめんな。太惺も心望もごめんな。惣一郎さん、和江さん、留守にしててすみませんでした」
帰ってくるなり平謝りしていた。
「は~~る‼」
「悪かったってさっきもあやまっただろう。まさか大事な書類だとはこれっぽっちも思わなかったんだよ」
待てど暮らせどなかなか帰ってこない彼に業を煮やした橘さん。学校から茶封筒を預かっているはずです。目を通さないといけないプリントや、明日までに提出しないといけない書類があるはずです。子守りをしながら間違わないように書くの、意外と大変なんですよ。それ分かってますか?
お冠の様子で電話越しに彼を叱りつけた。
橘さんの雷が落っこってから15分後。冷や汗をかきながら大慌てで彼や柚原さんが帰ってきた。
「おっかねぇカミさん持ってお前ら大変だな」鞠家さんが苦笑いしながら出迎えた。
「どうせ美人に鼻の下を伸ばしていたんだろう」
「な訳あるか。俺は未知一途だ」
「俺だって優璃にぞっこん惚れている。浮気する訳ないだろう」
疑いの目を向けられ慌てて否定していた。
「私が怒っているのはそれもありますが、なんでまたPTA役員を引き受けてきたんですか?しかも学年委員長。PTA役員はせめて来年か再来年に。絶対引き受けてこないようとあれほど頼んだはずです」
「だから悪かったって。2組だけ誰も手、挙げないからさぁ。なかなか決まんなくて。他の組はじゃん拳でわりとすんなり決まったんだけど・・・・・」
しどろもどろ、最後は蚊の鳴くような声になっていた。
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