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番外編 薄墨の女

「ねぇ遥琉さん」 「ん?」 「隣、座ってもいい?」 「いちいち聞かなくても。俺の隣は未知の指定席だって決まってるだろう?お、ありがとうな」 ミルク多めの温かいカフェオレが入ったマグカップを彼の手に渡して隣にゆっくりと腰を下ろした。 「疲れただろう?大丈夫か?」 「僕はなにもしてないよ。遥琉さんや一太がいてくれたからこそ、無事に乗り切れたんだよ。ありがとう」 「そんなに見詰められたら、照れるじゃねぇか」 困ったように苦笑いされてしまった。 斉木先生と若先生のこと。 川合さんのこと。 彼に聞きたいことは山のようにあった。でもなかなか切り出すことが出来ないでいた。 「にしても賑やかだな。盆と正月が一緒に来たようだ」 「東京と福島だもの。そうめったに会えないから」 「まぁ、それもそうだな。もうみんな若くないんだ。呑みすぎなきゃいいんだが」 「うん、そうだね」 「なぁ、未知」 名前を呼ばれて彼の顔を見ると、おでこにチュッと軽く口付けされた。 「舎弟(みんな)がな、川合に釘を刺したんだ。オヤジもカシラも姐さんに心底惚れている。色仕掛けで迫っても無駄だってな。未知、ごめんな。前よりずっとずっときみを愛してる、改めてそのことに気付かされた」 「遥琉さん……」 見詰めたまま、誰よりも愛おしい彼の名前を呼ぶと、胸が甘く疼いた。 「好き……僕も、……」 彼への想いを告げるほどに、優しい気持ちで胸が一杯になる。まるで、彼の持つ優しさが流れ込んでくるように……… あれ?ちょっと待って。 今、たしかオヤジもカシラもって。 カシラって一人しかいないよね?

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