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番外編 本当はバーバとマーの子どもとして産まれたかった

偶然にも遥香は一太と同じさくら組。 さくら組の先生に連れられて、ちょうど真ん中の場所に並べられた椅子に座った。 僕たちはホールの後方の保護者席に座った。 地竜さんは座らず窓に寄り掛り、鋭い目付きで周囲を見渡していた。 泣いている子どももいるなかで遥香はいつも通り。緊張することもなく、先生の目を盗んではちらりと後ろを見て、満面の笑みで手を振っていた。 「お調子者は誰に似たんだ?」 (誰って…………一人しかいないのにね。面白いパパだね) おなかを何度も蹴る向葵にそぉーと、小声で話し掛けた。 親と分かれてひとりで椅子に座るのが怖いのか、小柄な女の子が母親のスカートにしがみついてなかなか離れようとしなかった。 先生がその子を宥めようとしているのを見た遥香。 すっと席を立つと、泣いているその子の側に行って、手を握り、笑顔で何かを話し掛けた。 「優しい子に育ってくれたな」 「うん」 「面倒見の良さはままたん譲りだな」 彼と橘さんと柚原さん。 紗智さんと那和さん。 度会さんと紫さん。惣一郎さんと和江さん。 組のみんなで育てた看板娘だもの。 こんなに優しい子に育ってくれて涙が出るくらい嬉しかった。 泣いていた女の子はピタリと泣き止むと、二人で並んで椅子に座った。 「あ、しまった!写真を取り損ねた」 「いいよ別に。胸にしっかり刻みこんでおけば……」 何気に視線を感じ後ろを振り返ると、地竜さんがスマホを握り締め笑顔で手を振っていた。 「俺は撮ったぞって、いちいち自慢しなくていいから」 こんなところで張り合わなくてもいいのに。 彼も地竜さんも子どもみたいでほんとうに面白い。

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