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番外編 应该拿到幸福吧!
「優先生って、お前医者だったのか?」
疑わしそうに地竜さんをじっと見つめる彼に、
「言わなかったけ?」
しれっとして答える地竜さん。
「は?いま、はじめて聞いたぞ。未知は知っていたのか?」
ううん、ぶんぶんと首を横に振った。
「医師免許を持っているだけ。それだけのことだ」
地竜さんはさばさばとした表情で答えた。
「ねぇねぇ」
那和さんが紗智さんの袖を掴みつんつんと引っ張った。
「話しがまったく分からない。どういうこと?」
「地竜は、俺と那和を育ててくれたイェン先生の弟なんだよ。収容所で子どもたちみんなに『ゆうおにいちゃん』って呼ばれていた。那和は小さかったから覚えていないと思う」
「ゆう……おにいちゃん……?」
不思議そうに首を傾げる那和さん。
「そう。俺達の命を救ってくれたヒーローなんだ、彼は」
すっと音もなく立ち上がるとふらふらと地竜さんの前に立った。
両手を伸ばし頬にそっと静かに置いた。
紗智さんを見上げる形になった地竜さん。
微動だにせずじっと見つめ返した。
「原因不明の感染症に罹り、次から次に仲間が死んでいった。そのときイェン先生が優先生を連れてきた。だよね?」
「あぁ。研修医をしていた俺は兄に頼まれたんだ。劣悪な環境で育てられ、食事もろくに与えられず餓死寸前の子どもたちを、感染症から救う手伝いをしてほしいと。これ以上、ちいさな命の灯火を消したくないと。紗智は一太みたく、兄弟想いの優しいおにいちゃんだった。一太を見てるとあの頃の紗智の姿が重なる。生きてさえいればいつかこの日がくると覚悟していた」
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