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番外編 你不打我吗?

よく見るとそれは鮮やかな緑色の丸い石だった。 「翡翠の守り石だ。ボスが玩偶に贈るために用意した。これが………」 「芫、もういいから」 慌てて止めに入った地竜さんを無視し、もうひとつ、今度は違うものをポケットから取り出した。 「玩偶はこれを貰えると喜んでいた。でも、実際に渡されたのは守り石だった。玩偶は怒り、ボスを問い詰めた。日本に妻子がいること、実の兄弟がいることを知った」 翡翠で作ったブレスレットを芫さんから手渡された。ずしりとした重みがある。かなり値の張る高価なものだと容易に想像がついた。 つまりこれは妻の証し。 前に贈られた腕輪は僕の身代わりになり壊れてしまった。 あれ?もしかして? はっとして地竜さんの手首を見ると、これと同じものを身に付けていた。 今のいままで全然気づかなかった。 そして僕を見るワンさんの笑顔の下に隠された視線の冷たさの理由(わけ)がようやく分かったような気がした。 「なぁ、地竜」 彼が呆れていた。 「つくづく罪作りな男だよ。お前は。芫の言う通り男心が分かっていない。人嫌いのお前をワンはこんなにも一途に好いてくれるんだ。未知よりワンを大事にしてやれ」 「卯月の頼みでも聞き入れる訳にはいかない。俺は一生涯未知だけを愛し抜くと心に決めている」 揺るぎない地竜さんの決意に、ワンさんの目から、おそらく悔し涙だろう。一筋光るものが零れ落ちた。 紗智さんと那和さんが物言わず側にぴたりと寄り添い、一太と遥香も心配そうにワンさんを見上げた。

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