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番外編 鶴首

数日後ーー 中国に帰国する前に地竜さんが家に寄ってくれた。 本来の目的は芫さんを迎えに来たみたいだけど、芫さんはふらっとどこかにいなくなってしまった。 「鶴首という言葉を知ってるか?」 「あぁ。長い鶴の首みたく、物事や時日のやってくるのを今か今かと待ちわびることだろ?」 「炎竜は、俺が迎えに来るのをずっと待っていたみたいだ。素直に小屋の中から出てきて、持っていたナイフを俺に渡してきた」 「そうか」 駅から数キロ離れた阿武隈川の支流・逢瀬川の河川敷で寝泊まりしているホームレスがいる。ソイツは背中に見事な黒い竜の刺青をしている。その情報通り高架線の下で路上生活をしていたのは炎竜さん………ううん、永山一樹さんその人だった。 「茂原が出所してくるまで、茂原のことを思い出し、元の永山一樹に戻ればいいんだが」 正気を失い自分が誰かすら分からない。 クスリの後遺症で廃人のようになっていた。 それでも不思議と地竜さんのことだけはちゃんと覚えていた。かつてのボスとしてじゃなく慕い憧れていた『優先生』として。 「ダオレンにシャブを打たれた茂原を炎竜はすべてを投げ出し献身的に支え、ダオレンから茂原を守るため蜂谷に託した。だから、最後にチャンスを与えようと思う。そのために芫が必要なんだが………困ったもんだな」 地竜さんがやれやれとため息をついた。

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