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番外編 鶴首

ワンさんが物陰からチラチラとこっちの様子を伺うように見ていた。 彼も地竜さんも気付いていたけど、あえて気付かないフリをしていた。 今から迎えに行く。準備して待ってろと大好きな地竜さんに言われて、てっきり嬉しいのかと思っていたら、帰りたくない!と駄々を捏ね紗智さんや那和さんを困らせていた。 「なぁ地竜」 彼がひと呼吸を置いて話し掛けた。 昨夜身内や橘さん、柚原さん、弓削さんら幹部を急遽呼び出した彼。 そこでみんなに決心したことを伝えた。 一人養うということはその分金が掛かる。 でも金には変えられない大事なものがある。 それはひとと人を結ぶ絆じゃねぇか? 彼を引き取れば間違いなく、紫竜やダオレンに狙われるだろう。 命はひとつしかないから、みんなで彼を守ってやろじゃないか。異議ある者は手をあげろって………。 「ワンは菱沼組(うち)で引きとろうと思う。一太や遥香が張り切って面倒を見ているし、一太と一緒に四苦八苦しながらひらがなを一生懸命勉強しているんだ。引き離すのはちと可哀想だなって………笑うなよ。人か真面目な話しをしているのに。失礼な野郎だ」 「ごめん。悪気はなかったんだ。芫から、お前が名付けの本を片時も離さず目を通していると聞いて、嬉しかった。ありがとう。感謝する」 「止してくれ。背中が痒くなる。それに、ワンを引き取るのは紗智や那和の為じゃねぇぞ」 「分かってるよ」 クスクスと愉しそうに苦笑する地竜さん。 「新しい名前が決まったら教えてくれ」 「おぅ、任せておけ」 満場一致でワンさんを引き取ることに決めた。 まだちょっと嫌われているけど、僕も異議はない。

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