1216 / 3283
番外編 酔生夢死
翌朝、根岸さんがジウさんを迎えに来てくれた。
「オヤジがジウを信じると言うなら俺も信じる」
「根岸、火中の栗を拾わせるような真似をさせてすまない」
彼が深々と頭を下げると、
「オヤジ、頭を上げてくれ」
あたふたと慌て出した。
「弓削が体を張って芫を見張ってる。ヤツも迂闊には動けないだろう。一太、ジウ、迎えに来てやったぞ」
ランドセルを背負った一太が元気よく玄関から飛び出してきた。
「ジウさんもはやく‼はやく‼」
手招きすると、スーツに着替えたジウさんが緊張した面持ちで出てきた。
ワンは犬みたいだから、名前が決まるまでジウって呼べるか?
そう彼に聞かれた一太と遥香は、大きな声で「はい」と答えた。
「ジウさん、いちたとのおやくそくわすれてないよね?」
ジウさんが大きく頷いた。
「おなまえをよばれたら、おおきなこえで“はい“。みずあそびはしない。らくがきもだめ。ねぎしさんといざわさんのいうことをちゃんときく。わかった?」
一太の話しをジウさんは耳を傾けて聞いていた。
二人には言葉の壁なんて、そんなの関係ないのかも知れない。
ジウさんの方が年上なのに。
一太はすっかりジウさんのお兄さんの気でいる。
「ねぎしさん」
「おぅ、なんだ?」
「ジウさんをおねがいします‼」
一太がぺこりと頭を下げた。
そしたらランドセルがパカッと開いて、教科書やノートがバラバラと落ちてきた。
「またやっちゃった」
えへへと頭を掻きながら一太がはにかむような笑顔を見せてくれた。
「一太の大事なジウはおじちゃんにとっても大事だ。だから、安心して学校に行け」
「うん、わかった‼」
教科書を拾いながら一太も、そしてジウさんもすごく嬉しそうだった。
ともだちにシェアしよう!