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番外編 酔生夢死

たいくん、ここちゃん、ママがいるから大丈夫だよ。絶対にママから離れちゃダメだよ。お利口さんにしててね。 どくんどくんと鼓動が速くなり、耳にはっきりと聞こえてきた。 これだけ厳重な警備体制を敷いているのになんで? 若い衆を疑いたくはないけど、内通者が紛れ込んでいたとしたら・・・・ 起こりうる最悪の事態が脳裏を過った。 僕はどうなっても構わない。 太惺と心望だけでもなんとか逃がさないと。 すぅーとひとつ深呼吸し、まずは落ち着けと自分に何度も言い聞かせた。 そしたら自然に声が出た。 「・・・・・けて・・・・・子どもだけは・・・・・お願いだから・・・・・」 天井を見上げながら懇願した。 すると、ククク、黒い影が嘲笑うかのように不気味な声で笑い出した。 「袋の鼠とはよく言ったものです。フーさんとウーさんは岳温泉からここに戻ってきたその日に異変を感じていました。もしかしたら黒い鼠が一匹紛れ込んでいるかも知れないと。未知さんと子どもたちだけになるのを虎視眈々と狙っていたつもりでしょうが、甘いですよ」 すっと音もなく現れたのは橘さんだった。 「橘………さん……」 「怖かったでしょう」 うん、頷いて子どもたちをぎゅっと抱き締めた。 「逃げても無駄ですよ」 橘さんが黒い影をじろりと睨み付けた。

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