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番外編 酔生夢死
蜂谷さんの目的は天井に潜んでいた男の遺留物………つまり、男が現場に忘れていったもの、足跡や手形や指紋を採取することだった。
衣類、靴、財布、携帯煙草ケース、名刺入れは紫さんがゴミ箱に捨てられたゴミの中から見つけ出し保管してくれている。
先月、二本松の病院で会ったことがある民間の鑑定研究所の研究員さんもフクシマ美装のツナギを着て蜂谷さんと玄関で掃除するフリをしながら早速作業をはじめた。
「未知、知ってるか?ハチがタマにプロポーズしたってこと」
伊澤さんが口角を上げニヤリと笑った。
「え?そうなんですか?」
「プロポーズされたタマも、一緒にいた刑務官も呆気に取られていた。そうだよなハチ?」
蜂谷さんの動きがピタリと止まった。
「玉井さんはなんて?」
「刑期満了まであと7年。毎月必ず面会に来てくれたら嫁になってやってもいい。但し、そのとき俺は45になっている。そんなおっさんにお前は欲情出来るのかって」
「伊澤、頼むから黙ってくれ」
蜂谷さんが真っ赤になりながら天井を指差した。
(どこに盗聴器があるか分からないだぞ。恥ずかしいだろう)小声で返した。
「何を今さら」
「そうだぞハチ。お前らの仲の良さはバディを組んでいた当時から有名だった。そうか、ハチ、頑張れよ」
猪爪さんが照れまくる蜂谷さんの肩を軽く叩き、度会さんの案内で家の中に入っていった。
「未知、あとは俺たちに任せろ。なるようにしかならないさ」
「宜しくお願いします」伊澤さんの力強い言葉がこんな状況だからこそなにより嬉しかった。
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