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番外編 酔生夢死

何がそんなに楽しいのか、太惺と心望がキャキャとはしゃぎながら、彼の頬っぺたをぺたぺたと触っていた。 「ごめんな、ナオ」 されるがままになっていた彼が、力なく崩れた姿勢で、許しを請うように謝った。 「卯月さんは悪くない」 ナオさんが慌ててぶんぶんと首を振った。 2人の話しに付いていけなくて、思わず根岸さんに助けを求めた。 「姐さん、尾形という女性を覚えていますか?」 「尾形………さん?」 えっと………… すぐには思い出せなかったけど、惣一郎さんの剣道の仲間だと聞いてようやく思い出した。 「彼女の義理の息子がカモにされたんだ。名字が違うから誰も気付かなかったんだ」 「俺はヤツを助けることが出来なかった」 手をグーに握り締め、悔しそうに歯軋りすると床にぐいっと強く押し当てた。 「オヤジは悪くない」 根岸さんが腰を屈め、太惺と心望の顔を目を細めて覗き込むと頭を優しく撫でてくれた。 「旦那の連れ子でも、どうしようもないドラ息子でも、息子には変わらない。たいくんとここちゃんみたく可愛いもんだ」 「だな」 彼がふっと微笑んだ。 「その………尾形さんは?息子さんは?」 聞くのが怖かったけど、どうしても知りたかった。 姐さんとして彼と真実にちゃんと向き合いたかったから。だから覚悟を決めた。

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