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番外編 酔生夢死

「この面汚しが‼」 浅川という刑事がひどく怒り、蜂谷さんに掴み掛かるようにして怒鳴り散らした。 通りを埋め尽くすくらい野次馬とマスコミが集まっているのも関わらず、 「てめぇみたいな空気を読めないヤツはいらねぇだよ。不要だ。とっと辞めっちまえ‼」 胸ぐらを掴み脅した。 蜂谷さんは反論せず浅川という刑事を睨み付けた。すると、 「何だその目は?それが上司に対する態度か?」 怒りに任せて拳を振り上げた。 「おぃおぃ、誰も止めに入らないのか?まぁ無理もないか。パワハラ上司に歯向かったら、自分が窓際部署に飛ばされるからな」 彼が皮肉たっぷりに回りにいた刑事たちに嫌味を言うと、みな一様に渋い顔を浮かべた。 「面汚しは浅川さん、アンタの方じゃねぇのか?蜂谷は、弱い者の声に常に耳を傾け、その思いに報いろうと身を粉にして寝ずに頑張っている。黒い噂が絶えないどっかの誰かさんとは雲泥の差だ。と言っても分からないか。まぁ、それもそうだな。上司が上司なら、部下も部下だ。信孝、家に入ろう。こんな連中の相手をするだけ時間の無駄だ」 「あぁ」 彼が信孝さんに声を掛け、玄関に戻ろうと歩き出した時だった。 それまで黙々と交通整理をしていた若いお巡りさんがくるっと体の向きを変えスタスタと早歩きで浅川さんのところに向かった。 彼一人だけじゃない。 数人のお巡りさんに囲まれ、浅川という刑事は渋々ながらも拳を下ろし、胸倉を掴んでいた手を離した。

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