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番外編 酔生夢死

「また借りが出来たな。今度はいつ返せるか分からない」 「返す必要はない。何かあればすぐに駆け付けてくれる。それがどんだけ心強いか。礼を言わなければいけないのは俺の方だ」 同僚の目を盗みひそかに動画を撮影していた蜂谷さん。 ピザの箱に入っていたのはドライアイスだった。 悪質な悪戯だった。でも一歩間違ったら死人が出る大惨事になっていたかも知れないって彼が話していた。 以前投げ込まれたペットボトルに仕込まれていたのもドライアイスだった。 【パパでんわだよ~!パパでんわ!】 信孝さんのスマホの着信音が鳴ったと思ったら声が一太と遥香だった。 「信孝が別に羨ましい訳じゃないからな」 照れ臭そうに笑うとスマホを耳にあてた。 「そうか、分かった」 短く答えるとすぐに電話を切った。 「卯月さん」声を震わせながらナオさんが信孝さんの腕にぎゅっとしがみついた。 「一命は取り留めた」 「良かった…………」 もう一方の手で口元を覆うと、よろめきながら一歩後ろに下がった。 「ナオ!」 信孝さんが寸でのところで抱き止めた。 「卯月さんありがとう」 噛み締めるようにナオさんがお礼を言うと、 「止してくれや。背中が痒くなる」 恥ずかしいのかごほんとわざとらしく咳払いをしていた。 「あとは皆藤の安否か」 蜂谷さんが眉をひそめた。 「かいどうさんって?」 彼に小声で聞いた。 「尾形の義理の息子だ」 「特殊詐欺の受け子や寸借詐欺の前科がある。浅川に何らかの弱みを握られスパイとして菱沼組に潜り込んだんだろう。浅川は、俺に余計なことはするな。言うことを聞かないなら玉井との関係を公にすると脅してきた。別に隠さなくても、玉井が俺の公私共にバディだって知っている人は知ってるし好きにすればいいだろうと答えた。どうせ刑事でいれるのもあと一週間だし」 吹っ切れてさばさばとしていた。

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