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番外編 マトリの女?

夕ご飯を食べ損ねた彼にひとまずこれを食べさせてあげたい。 うどんを丼に入れゆっくりと温かなあんをかけていった。 ナオさんに作り方を教えてもらった出汁のいい香りが、ふわりと鼻をくすぐる。 橘さんが作ってくれる料理には遠く及ばないけど我ながら上手く出来たと思うし、これなら少しでも食べてもらえるんじゃないかな。 期待と不安にドキドキしながら、出来上がったうどんをリビングで待つ彼の元へ運ぶと、ソファに身体を沈めるようにして座っていた彼がふっと顔を上げた。 (あ……) 疲れがハッキリと窺がえるその顔に、ズキリと心が痛んだ。 普段はとても忙しくて、家に帰っても一息つく間もなく子どもたちと遊んだり、一太の宿題をみてくれたりとあれこれ動き回っている。 特にここ2日、3日は目が回るくらい忙しいみたいで家と組事務所を行ったり来たりしているから尚更心配だった。 「遥琉さんどうぞ」 笑顔でうどんと、お茶をテーブルに置いた。 「お、ありがとうな。未知はちゃんと食べたのか?」 「うん」頷くと、 「なら良かった」 安堵のため息をつくと、彼も笑顔になりゆっくりと箸を取った。 噛み締めるようにして一口食べたあと、 「美味しい……」 しみじみとした口調で呟いた。 「本当に?美味しくないなら正直に言って」 「嘘じゃないよ。出汁の香りといい、とても優しい味で美味しよ」 「良かった……どう頑張っても橘さんみたく上手に作れなくて………」 何より嬉しい言葉を掛けてもらい、ほっとし胸を撫で下ろした。

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