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番外編 マトリの女?

キャキャとはしゃぐ子どもたちの賑やかな声が家の中まで響いていた。 台所には近寄りがたいなんともいえない空気が漂っていた。流しの前で黙々と茶碗を洗う鞠家さん。その隣でこれまた黙々と野菜を刻む橘さん。 ガス台の前に立ち、下ごしらえされた大量の野菜に怯むことなく淡々と衣に潜らせ天ぷらを揚げる国井さんと、その隣で「やぁ~~ん、もぅ!あついんだけど~~」とかわいい声を出しながらもこれまた大量の素麺を茹でるチカちゃん。 ただでさえ狭い台所に大の大人が4人。 かなり窮屈そうだった。 太惺は橘さんの背中におんぶしてもらい親指をしゃぶりながら、こっくりこっくりと船をこいでいた。 「橘、鞠家、相手は悪知恵がきくとんでもない悪党だ。それを分かっているのか?」 ぼそっと国井さんが不意に呟いた。 「そうですね。信孝さんの家に盗聴器が5台、度会さんの家に10台、組事務所やテナントからもそれぞれ複数台見付かった時点で、私も遥琉も、そして、鞠家さんをはじめとする幹部連中は全員、命に代えても未知さんや子どもたちを守り抜くと、覚悟を決めました。あなたからしたら馬鹿げているでしょう。滑稽でしょう」 「いや、そんなことはない」 国井さんが目を細め太惺の頭を撫でてくれた。 「パパの子どもとして生まれてきたことを後悔していないか?一太くんだっけ?彼に聞いたんだ。そしたら、後悔はしていない。即答された。パパにもし何かあったら僕がみんなを守る。組のみんなを守る。物怖じすることなく堂々とした答えが返ってきたから驚いた」

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