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番外編 マトリの女?
「ここにいるのはリーの息子じゃない。俺の息子だ。そのときのハルくんめっちゃめちゃ格好良かったのよ」
チカちゃんの隣で国井さんがごほんとわざとらしく咳払いをした。
「ん?」
その意味が分からず首を傾げていると、
「旦那の前で他の男の名前を口にするな。国井が焼きもちを妬くのも当然だろう」
見かねた鞠家さんが助け船を出してくれた。
「え?そうなの?」
「悪かったな」
恥ずかしそうにぷいと顔を逸らす国井さん。
「油が跳ねる。火傷したら大変だ。離れていろ」
ぼそっと呟くとまた黙々と天ぷらを揚げはじめた。
「ママ!」
そこへ一太が駆け込んできた。
「パパと、はれくんのパパすごいんだよ」
興奮していて僕の言葉は耳に入っていない。
「あとね、あとね」
ぴょんぴょんと跳ねながら言葉を続けた。
「すごいんだよ、すごいんだよ」
「一太、何がすごいの?」
「えっと………なんだっけ?」
度忘れしたのか頭を掻きながらてへっと照れ笑いを浮かべた。
「ここだけの話し、遥琉と信孝さん、子どもたちにはみっともない格好は見せたくない。男が廃ると、夜が明ける前から竹馬と駒回しの猛特訓をしていたんですよ。柚原さんと鞠家さんは早々に根を上げましたけど………2人とも負けず嫌いですからね」
橘さんが着ていた割烹着の裾で手を拭くと、一太の頭を撫でてくれた。
「流し素麺はじめましょうか」
「たちばなさん、すごいのできたよ」
「国井さんと千景お姉さんに感謝しましょうね」
「はぁ~~い!」
千景お姉さんじゃないよ。千景お兄さんだよ。普通は突っ込みところなんだけど、一太はさほど気にせず元気一杯に返事をした。
「やぁだ~~もぅ、お姉さんだって」
「良かったな」
「うん!」
チカちゃんが満面の笑みを浮かべた。
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