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番外編 マトリの女?

「呼ぶな‼」 芫さんが声を振り絞った。 「ダオレンに俺がここにいるのがバレる」 苦しそうに眉間に皺を寄せながら言葉を継ぐと、また激しく咳き込んだ。 「もう喋るな」 「随分と優しくしてくれるな。今までの塩対応とはええらい違いだ」 「だからもう……」 弓削さんが芫さんの肩をそっと抱き寄せた。 その時国井さんが何かに気付いた。 「この匂い……気のせいかと思ったが……」 国井さんが厳しい表情を浮かべ、芫さんの手首をガシッと掴んだ。 「止めろ!」 暴れる芫さんを押さえ付け、袖を捲り上げた。赤黒く変色した皮膚には注射の跡がくっきりと残っていた。 「薬物にはもう二度と手を出さない、オヤジと俺と地竜にそう約束したよな?今度こそは更正するって。嘘だったのか?」 弓削さんが悔しそうに歯軋りをした。 「もっとちゃんと話しをしたかった。な、ユゲ」 「人の話しを聞け」 「聞かない」 よろよろと上体を起こす芫さん。 「マトリだか、ソタイだか知らないが、煮るなり焼くなり好きにしろ。俺を逮捕したところで、いくらでも代わりはいるからな」 ゲラゲラと嘲笑うかのするように笑いながら両手を差し出した。 その時、チュピチュピチュピジー。鳥の囀ずる声が聞こえてきて、芫さんがふと空を見上げた。 視線を辿っていくと近くの電線に一羽の鳥が羽を休めていた。 「あら、珍しい。ツバメよ」 チカちゃんが教えてくれた。 「ジウ………違う。亜優か………○×▲△×○」 芫さんがふっと微かに微笑むと、ジウさんに何かを伝えた。

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